【2017年12月刊】駐在員を教育するぐらいなら現地社員を教育せよ? 4
天津では集中暖房が入り、冬本番。夏でも行列のできる火鍋屋がさらに大賑わいの季節ですね。日本の木造家屋と比べたら、冬の天津は天国のようです(室内限定ですが)。ウチのオフィスも強みを発揮する時期がやってきました♪ 東と南が全面ガラスで、夏場は暑くて困るのですが、冬場は暖房がなくてもかなりイケます。これで空気がきれいだったら、眺めも最高で言うことなしなんですが……(でも時々、視界ゼロで、雲の中に浮かんでいるような幻想的光景は味わえます)。
前回は、「組織管理において日本人駐在員がボトルネック化」しているといっても、それは駐在員の皆さんのせいとは限らない。むしろ組織管理の難度が上がっていることが原因だと書いて、難度が上がっている要因として「成長期が終焉したこと」を挙げました。次の要因は、「経験の交差」です。
要因② 経験の交差
多くの日系企業が立ち上げ期・創業期にあったのは、2000年代前半まで。当時の中国は全速力で疾走しながら制度をつくっていくような段階。まだまだ人治の面が強く、力技や寝技を含め、パワーでプロジェクトを引っ張らないと立ち上がるものも立ち上がらないような時代でした。このため、各社とも馬力も経験もあるリーダーを現地に送り込んで立ち上げを任せていました。当時、私がお会いした皆さんも、私より二回りは年上の猛者や達人ばかりで、よく酒席で武勇伝や秘史を聞かせてもらって、ドキドキしたりワクワクしたりしたものでした。
立ち上げ時期ですから、現地社員は入社したばかり。みんな二十代前半の若者で、知識も経験もないけれど、やる気と吸収意欲はあふれている、という感じでした。
こういう時代の駐在員と現地社員の関係は、単純明快で、
・立場(上司と部下)
・所属(本社と現地法人)
・年齢(年配者と若者)
・社歴(ベテランと新入社)
・経験(熟練とほとんど白紙)
どれをとっても力関係が明確で、「オレについて来い!」と「ついていきます!」が疑問の余地なく成り立っていました。
ところが、設立から十五年ぐらい経つと、光景が一変します。
駐在員と現地社員の関係は劇的に変化した
多くの日系企業は、平均三年で駐在員が交代します。また、立ち上げ時と現在では現地法人の課題が異なるため、駐在員の役割も変わってきます。立ち上げ時は「とにかく資源を集中し、一気に形にしていく」ことが必要で、言わば効率無視のパワープレー。でも、安定稼働に入り市場環境も変化した現在は、効率やコスト管理が重要に。このため駐在員数が減り、掛け持ち範囲が増加。また、本社の人材育成の観点から派遣者の若年化を図ったりもしています。
一方、現地社員たちは、昇給し、昇格し、経験を重ねていきます。この結果、お互いの関係は、
・立場(上司と部下)
・所属(本社と現地法人)
・年齢(逆転も)
・社歴(現地法人では逆転)
・経験(現地経験は逆転)
となり、以前のような単純な関係ではなくなります。少なくとも、現地管理者が、「今回の部長、日本では部下五人だったって? ウチの部は二百人以上いるけれど大丈夫かよ」とか、「今度の兼任部長、人事労務の経験ゼロでしょ。また一から手取足取り教えなきゃアカンのか、勘弁してよ」などという目で新任駐在員を見たとしても、無理はありません。
そして、気をつけなければならないのは、やってくる新任者の方が、このような「経験の交差」(現地部下の自分に対する目線)を認識せず、初代駐在員のようなやり方で彼らと接してしまうこと。まず間違いなく、現地部下たちの反発や冷眼を招き、赴任早々から組織管理に挫折しかねません。
2017.12 Jin誌