【2008年05月刊】労働契約更新時のポイント

2008.05 Whenever天津誌 掲載

天津の爽やかで短い春から初夏は、多くの日系企業で労働契約の更新や給与の調整を準備する時期でもあります。そこで今回は、契約更新時の注意事項について確認してみたいと思います。

(1)契約更新処理を忘れないように!

本業で忙しい状態が続くと、ついつい労働契約の更新処理を忘れてしまいます。更新期を1、2か月過ぎてから、あわてて処理したという経験をお持ちの方は、少なくないのではないでしょうか。労働契約法では、契約開始から1か月を超えても書面で契約更新(締結)を行わない場合、二倍の給与を当該社員に支払わなければならないと定められました。今後はくれぐれもご注意ください。

(2)次の契約期間をどう設定するか

労働契約法は、固定期限の労働契約を二度結んだ後、無固定期限契約に移行しなければならないと規定しています。
この回数は2008年1月1日以降に締結(更新)した分からカウントしますが、二度目の契約期間終了時に、会社側には契約更新の選択権はないとされています(今後出てくる労働契約法の実施細則等で風向きが変わる可能性はありますが:筆者註2014年4月時点で、まだ風向きは変わっていません)。

とすると、会社が長期的な雇用関係を築くに値する社員かどうかを見極めるチャンスは、1回目の契約期間しかないということになります。
従来は、1年単位の契約が圧倒的に多かったのですが、今後は、「1年では見極めに不安が残る」という経営者の方は、2~3年の契約も考慮する必要があります。

(3)契約更新時の処遇条件変更

契約更新時に、処遇条件の交渉を行う場合があると思います。社員は処遇アップのチャンスとみて揺さぶりを掛けますし、経営者は他の社員への公平性と本人を引き留めたい心のバランスを取るのに四苦八苦します。

すぐには難しいかもしれませんが、日系企業の風土に合わないことと、今後の長期雇用化を考えると、私は契約更新時の条件交渉の廃止をお勧めします。

もう少し掘り下げてみましょう。契約更新時の交渉と聞いて、どんな業界が浮かぶでしょうか。代表的なのはプロスポーツだと思います。野球やサッカーの契約更改交渉は、シーズンになると新聞やテレビを賑わせます。彼らの仕事にはこんな特徴があります。

  • 個人業績をシビアに特定される
  • 契約は必ず固定期限
  • トレードや二軍落ちは当たり前

振り返って、中国現法の契約を考えてみましょう。製造業の場合、個人業績の偏重は逆効果になりますし、契約期間は労働契約法で長期化を余儀なくされています。また、中途採用や抜擢人事ばかり続けていたら、日系企業の強みである「人を育てて活かす」ことはできませんし、降給、降格人事の断行は、経営者の心情としてなかなか難しいのではないでしょうか。

加えて、次の④で書きましたが、契約更新時の降給・降格は、会社にとって経済的負担のリスクが増加しました。条件を下げるというカードが切れない状態で条件交渉を行うことは得策ではありません。

こういったことを考えると、処遇条件の見直しは、更新期に社員個別で行うのではなく、統一した基準・時期で実施する方がしっくり来ると思います。契約更新期は条件交渉の場ではないと明確に打ち出して例外を無くしてしまえば、社員も条件交渉は別の機会に持ち出すようになります。

(4)契約満了時にも経済補償金が発生

双方同意して契約更新できることが一番ですが、時には更新せず、契約満了となることもあります。労働契約法の規定では、労働契約の満了時に、会社の意思で契約更新しない場合、経済補償金の支払いが発生するようになりました。契約を更新しないにも関わらず経済補償金を支払う必要がないのは、以下の条件をすべて満たしたときだけです。

  • 会社は契約更新を申し出た
  • 会社の提示条件が従来以上だった
  • にも関わらず本人が同意しなかった

会社が、「これまで、あなたにはスペシャリストとして5000元の給与を支給していましたが、今回の契約更新では、能力と処遇のバランスを考えて4500元にします」と告げた場合、本人が納得せず不更新となれば経済補償金が発生します。

実は、天津市には、昨年までも『就業補助金』という規定がありました。会社側が労働契約の更新をしない場合、一定の基準に従って就業補助金を支払わなければならないという規定でした(労働契約法の施行により廃止となりました)。

ここで注意していただきたいのは、2008年1月1日より前から雇用していた社員との労働契約が、上記三条件を満たさずに満了する場合です。2007年12月末までの勤務期間は就業補助金として計算し、2008年1月からは経済補償金で計算する必要があります。多くの場合、全勤務期間を一貫して経済補償金で計算するよりも支払い総額が高くなります。

また、勤務期間の1年未満分の切り上げ処理の仕方、支払額のベースとなる給与の月数分の上限など、就業補助金と経済補償金は細部において異なっていますので、この点もご留意ください。

労働契約更新時のポイント

  1. 1か月以内に更新処理を!
  2. 契約期間は1年でOK?
  3. 更新時の条件交渉は避けて
  4. 契約満了時の補償金に注意

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