【2008年06月刊】労働仲裁の大幅増加時代に備えて
2008.06 Whenever天津誌 掲載
このコラムを書ているタイミングで、労働契約法 実施条例の草案が出されました。草案ですから、まだ内容が確定したわけではありませんが、印象として二点挙げておきたいと思います。
労働契約法 実施条例草案の印象
一つは、一方的な労働者有利に偏らないよう、企業の正当な権利を認めバランスを取った点です。例として、企業は無固定期限の労働契約においても、他の契約形態の場合と同じように契約解除できることを条件の列挙によって明記しています。
また、事前に労働契約を締結し、まだ実際の労働関係が成立していない(入社前)段階で適法に労働契約を解除した場合、企業は本人と約定した違約責任以外に医療費用や経済補償などを負担する必要はないとしています。印象のもう一つは、仲裁員には判断基準の優先度があるということです。
仲裁員の判断基準の優先度
- 適法な社内規定、ルール
- 法律法規の規定
- 曖昧な場合は労働者優先
これを見れば、社内規定がない、または、規定があるものの大雑把で曖昧なことによる損失を理解していただけるのではないかと思います。
社内規定が不備な場合、法律法規が会社の権利について明確に定めていない限り、仲裁では労働者優先で判断されます。
社内規定類を見直さなきゃと思いつつもついつい手をつけずに来られた経営者の方は、5月1日以降、リスクが増大していますのでお気をつけください。
なお、(1)の社内規定の「適法性」ですが、次の三つの要素が必要です。どれか一つが欠けても企業にとっては不利となります。
- (1)規定の内容自体が適法
- (2)社内で導入・運用する手順が適法
- (3)全従業員が就業規則を読んで理解したことを証明する記録がある
規定内容が法律法規に違反していないことは当然として、見落としがちなのが(2)+(3)です。
社内規定の導入に関して、労働契約法は、労働者の切実な利益に直接関わる規定を導入する場合、周知・協議の厳格な手順を求めています。周知だけであれば、食堂や通路に一定期間掲示するという方法も有効ですが、記録の点で不十分です。仲裁時に従業員が「私は見ていません」と主張したら、どう反論できるでしょうか。
- 見ていたのを目撃したと反論……×(目撃した証拠がない)
- 見ていないのは本人責任と反論……×(中国の司法では日本と異なり、この主張が認められない)
- 掲示していた記録があると反論……×(中国の司法では日本と異なり、この主張が認められない)
いずれも不十分です。この従業員本人が「掲示を見ていたと証明する記録」が必要です。
「就業規則 第○版に関して、内容を熟読・理解・同意した旨、署名します」と記載した従業員リストを作成し、全従業員から署名と日付記入を得ておけば、これは記録となります。規定の運用も同様です。「度重なる紀律違反により、懲戒解雇に処す」場合、紀律違反の度に警告書の交付や始末書の受領を行って、記録としておく必要があります。
以上、労働仲裁のポイントについて整理しました。厳しい戦いながら、勝負どころは明確です。問題や紛争が発生してからではなく、日常の管理レベルを上げて脇を固めていくしかないようです。