【2008年07月刊】評価制度と給与制度の関係
2008.07 Whenever天津誌 掲載
早いもので、労働契約法の施行に騒然と始まった2008年も上半期が終了しました。実務上はこれから下半期に入るところですが、経営者の方は、来年からの計画や仕組みづくりについて構想を巡すことが増える時期だと思います。今回は、人事制度の見直しや構築で中核となる、『評価制度(考課制度)』と『給与・賞与制度』の関係について考えてみましょう。
評価と給与、どちらが課題?
いま、経営者として「評価制度と給与制度、どちらの課題意識が強いですか?」と聞かれたら、どちらを選びますか。実際に伺っていると、答えはまちまちです(一番多いのは「どちらも重要課題」という真摯な経営者だったりしますが)。
まだ制度として評価・給与の仕組みを整備していない場合、「まずは給与制度を」と感じ、すでに何らかの形で制度を運用している場合、「評価制度を見直したい」と感じることが多いようです。
まず給与制度を!という感覚は、制度の切実度を考えると納得できます。給与制度は「基準に基づくカネの配り方」を決めるもので、社員の処遇という観点だけでなく、会社の資金流出という点からも毎月直面する切実な問題です。
一方、評価制度は(本来の目的・運用とは異なりますが)、年に1~2回、期末に実施するものですから、給与制度ほどの緊急性を感じません。
では、切実度は切実度として、実際どう取り組むのが効果的なのでしょうか。
取り組む順序
私は、評価制度と給与制度の優先度について、いくつかの基準で考えています。
- 会社の草創期:給与制度のみ
- 給与基準が説明不能:まず給与制度
- 上記以外の場合:評価制度→給与制度
まず、(1)の会社の草創期は、社員が一丸となって「事業を立ち上げる」というプロジェクトに取り組みます。細かな役割分担よりも前に、全員で専門領域外の仕事や雑務をカバーしなければ話になりません。こういう時期に大切なのは、各自への公正な処遇よりも『一体感』です。
ですから、まず給与の大枠と構成要素を決め、採用時点である程度、合理的な提示金額を決めてしまえば、それで十分ということになります。逆に、給与を決める大まかな根据もなく、相手の希望と会社の採用緊急度だけで決めてしまうと、後で問題の火種となりますので、気をつけてください。
次に(2)。すでに立ち上げ時期は過ぎているものの、採用時期や面接時の交渉によって社員各自の給与水準がバラバラで、昇給時期を迎えるたびに苦慮しているような状態です。この場合は、次の採用活動から大枠の中で提示給与を決められるよう、早急に簡易版の給与制度を作ってください。これでは過去に入社した社員の給与まで整理できませんが、これ以上、事態を複雑にしないための処置です。その後は(3)と同じです。
最後に(3)((1)(2)以外の場合)。給与制度より先に評価制度に取り組むことをお薦めします。特に、社内で以下のような課題が見られる場合は、この方が有効だと思います。
- 社員から「なぜ自分と彼では給与(賞与)にこれだけの差があるのか」と質問されても答えられない
- 社内で努力・成長を続ければ、何年後にどれぐらいの処遇を得るチャンスがあるか、将来像を示すことができていない
- 業界や地域並み以上の平均給与水準でも、給与に関する不満が減らない
- 賞与が既得権益や年二回の追加月給のように受け止められている
- 特に、比較的優秀な社員から納得感が得られていない
評価制度を先にする理由
評価制度を先にする理由は、「人のやる気は現状よりも将来像で決まる」ためと、「特に中国では、平等よりも公正に評価されることを望む」ためです。
評価制度は「どのような人を優遇したいのか(多くのカネを分配したいのか)」を決めるものです。適切な評価制度がないと、社員から見て、どのような成長・努力をすれば給与や賞与がアップするのか分かりません。これでは、現在の給与水準が悪くなくても、将来へのやる気が湧きにくいものです。
また、努力してもしなくても賞与や昇給が同じ(平等)、または、貢献した人の方が貢献しなかった人よりも低い(不公平)となれば、業界水準以上の処遇でも納得できません。
ですから、まず先に評価制度でどのような人を優遇したいのか、会社の姿勢を明確にし、その上で得た評価が給与や賞与にどうつながるのかを給与制度で示す必要があります。
実は、評価制度を一旦脇に置いて、先に給与制度を手がけようとしても、効果的、合理的に設計しようとすると、最初の検討事項である『給与構成』の段階から、評価制度の領域に踏み込むことになります。基本給には年齢や勤続年数を加味するのか。手当の種類はどうするのか。役職手当と資格手当と基本給のバランスはどうするのか……。
いずれも、結局、「どのような人を優遇したいのか」という会社の方針を明確にしない限り、判断できません。ですから、給与制度より先にあるいは少なくとも同時に、評価制度を検討する方が、全体としてはスムーズに進むと思います。
人事制度に取り組む順序
- (1)会社の草創期:給与制度のみ
- (2)給与根据なし:まず給与制度
- (3)上記以外:評価→給与制度