【2008年09月刊】評価制度づくりの目的と五原則(続)
2008.09 Whenever天津誌 掲載
この原稿は北京五輪の開会式直後に書いていますので、五輪がどう閉幕したのか分かりませんが、少なくともパラリンピックを残して終了しているはずです。
五輪の余韻も冷めやらぬ時期ですが、ビジネスでは短期間で様々な環境変化が予想されます。五輪モードで棚上げされていたものが一気に動くためです。特に法規定・政策の変化には注視が必要です。では、前回の続き「評価制度づくりの五原則」の(3)~(5)を見ていきましょう。
<3>評価制度づくりの五原則
- (1)社内公開できる制度にする
- (2)評価要素は現場で発見する
- (3)評価基準は素人も区分可能に
- (4)評価はチームで実施する
- (5)必ず本人にフィードバックする
(3)評価基準は素人も区分可能に
原則(2)で、評価要素を現場から抽出しました。評価要素は、それぞれ評価基準を設定します。基準設定のポイントは「評価の際、素人でもどの基準に該当するのか区分可能」なぐらい、評価基準の定義・記述を明確にすることです。
例えば五段階評価で、社員が自己評価しても上司が評価しても「4」となる場合は、評価基準の定義が素人でも区分可能なレベルに明確化されているはずです。逆に、評価シートだけ読んでも意味が分からず、人事部門からの説明を何度も確認しないといけないような場合は、「プロしか分からない」状態です。
この評価基準の明確化は、日系企業が一番苦手にしている部分の一つです。試しに日本本社で使っている評価基準を確認してみてください。「かなり」、「十分に」、「相当程度」などの表現があれば、まず素人では区分不能です。私が過去に在籍した企業を含めて、日本企業はかなりの割合で「プロ仕様」の評価基準です……。
素人で区分できない評価基準の問題は、三つあります。
- 自己評価の意味がなくなる
- 評価にバラツキが生じる
- 社員が評価結果に納得しない
まず、区分が曖昧であれば、中国の社員は可能な限り高い自己評価をつけます。五段階であれば「4」「5」に集中します。これでは、自己の業務の振り返りではなく、会社との駆け引き準備になってしまいます。自己反省がなければ、高い成長も望めなくなってしまいます。
また曖昧な記述では、評価者によって判断が異なってしまいます(同じ評価者でも、気分によって異なる判断をすることだってあり得ます)。当然、評価される側とする側の解釈も異なるでしょうから、結果を見せられても社員は納得できません。
(4)評価はチームで実施する
評価要素・基準が決まり、評価対象期間の業務が始まりました。半年単位で評価を実施する場合、半年後に評価結果を判断・確定させることになります。ここでポイントになるのが、「誰が評価するか」です。多くの場合、直属上司が一次評価、日本人部長が二次評価、最後にトップが調整、ではないでしょうか。
ですが、このような評価の実施には避けられない苦悩があります。
- 直接上司が確定評価に責任を持てない
- 上司の「アタリ/ハズレ」が生まれる
- 最終評価者の顔だけ見るようになる
苦悩をひと言に集約すれば、「評価者ごとに観点・基準がバラバラで、会社としての一貫性がない」ことです。これは、分かりやすい評価基準があっても生じますから、③の評価基準が曖昧であれば、もう確実にバラバラです。これを放置しておくと、
『理由なんて俺も知らねぇよ。総経理はアイツがお気に入りなんだろ』(直接上司)
『アイツの部門、ほとんど「4」らしいぜ。ウチの部長なんて良くても「3」だぜ。ったく俺たちツイてないよな……』(現場工たち)
『自分がどれだけ注意や指導しても、評価で上が全然違うこと見てるんだから、部下は私の話なんか聞かない』(直接上司)
……こんな状態になります。
では、どう評価を決めればよいのか。一番確実な方法は、評価者が集まって議論して決めることです。
といっても任せきりでは収拾がつきません。経営者がリード・サポートしながら、評価者全員(例えば一次評価者が課長層であれば課長層が集結)の観点・意見を引き出していきます。こうすることで、評価者ごとのバラツキが解消されます。直接上司は、自分も評価決定に参加したわけですから責任回避できません。
最初は、数日掛ける覚悟がないと、全員分の評価を議論できないはずですが、これを補って余りある効果が期待できます。また、二期・三期も議論を続けると、評価者自身が自分の偏りに気づいたり、経営者の観点を学びますので、議論の質が高まり、かつ時間が短縮していきます。
(5)必ず本人にフィードバックする
評価確定の後、最後の作業は、結果を本人にフィードバックすることです。賞与明細を見ないと自分の評価結果が分からない、という状態は論外ですが、評価結果を伝えるだけでも不足です。
評価者が一対一で、「評価結果を伝える」、「どうしてこの結果になったのか観点や理由を説明する」、「自己評価と差が生じた場合は、観点の違いを気づかせる」、「来期の期待や目標について一緒に議論する」ことがフィードバックです。
最初からここまでは無理ですが、フィードバックの最大の狙いは、評価者が成長することにあります。管理者として上司として、部下の成長に責任を持たせることは、企業の継続的発展のために絶対必要な要素です。評価結果は必ず本人にフィードバックさせる。これが最後の原則です。
以上、二回にわたって評価制度づくりの目的と五原則を確認しました。
ぜひ、世界に一つしかない自社の制度づくりにチャレンジしてみてください。