【2008年11月刊】内部コミュニケーションを劇的に深めるために2
2008.11 Whenever天津誌 掲載を一部加筆
前回のまとめ
- 「内部コミュニケーションの壁」を破ることができれば、人と組織に関わる多くの課題は解決できる。
- コミュニケーションの壁を破るには、日本人経営者と中国人社員の「価値観や行動原理の違い」を、理解することが第一歩となる。
価値観や行動原理の違いとして、前回は「リーダーシップ」について考えました。自然環境や社会的な違いから、日本では力強いリーダーシップが不要(ときには邪魔)であり、中国では優れたリーダーシップが切実に必要だったという話でした。
今回は「自己主張」について考えてみたいと思います。
日本人から見て、中国人は非常に自己主張が強いと感じることが多いようです。日本人経営者は、「中国人って何でこんなに自己主張が強いんや……。問題発生の理由を確認してるのに、自分の正当性ばっかり延々と話して先に進まん」とこぼします。
これを中国人社員に言わせると、「ウチの経営者は、全然私の言い分を聞こうとしない。自分の考えや部長連中の話ばかり優先する。不公平だ」となります。このギャップの背景に何があるのでしょうか。歴史的な視点から見てみましょう。
日本人の「話し合い」と中国人の「自己主張」
中国人の自己主張が強くなった背景には、広大な大陸で、異なる民族・言語・国家・生活手段(農耕・遊牧など)の人々が入り交じって社会を形成していたため、コミュニケーションの土台が共通ではなかったことが挙げられます。
社会常識も異なれば、商習慣も異なります。広い中国大陸では昔から交易が盛んでしたが、交易では全国統一価格など存在せず毎年、毎回価格が変動します。相手の売り物とこちらの売り物の価値を、主張によってその場で決めなければなりません。少しでも有利な条件で取引したいし、といって決裂しても困る。強烈に自己主張をぶつけ合いながらも、双方が折り合える着地点を見つける交渉のタフさは、こうして磨かれて来たのでしょう。
一方、日本では水稲農耕を中心とした共同体(ムラ)社会が続いてきました。革命や異国の侵入もほとんどなく、ムラが大家族のように何代にもわたって生活を続けてきたため、共同体内での常識・習慣・経験など、コミュニケーションの土台が共通でした。
このため、強いて自己主張する必要がないばかりか、協調や合意形成を重んじる共同体での自己主張は、逆に忌避されるようになりました。聖徳太子の時代にはすでに「和」と「話し合い」が重要なルールだったのです。
もう一つ背景を挙げると、歴史的に見て、中国は日本とは比較にならないほどの格差社会でした。富と権限の集中度合いは、故宮を訪れた方であればイメージできると思います。
また、革命によって統治者が替われば、一般庶民(老百姓)の生活そのものが引っ繰り返ることも珍しくありませんでした。民族的な差別、地域的な差別、旧国家の重点都市だったために受ける迫害、放牧や農耕という生活手段の違いによる差別……。
新国家が打ち立てられると、征服者の都合で、ある地域に住んでいる庶民を強制的に移住させる、生産力として自領に連行するといったことも行われました。
このように、自分の生死が自分と関係なく決まるような厳しい環境では、「自分の利益を自分で主張し、守る」のが当然です。変に謙譲の精神を発揮した庶民の血筋は途絶えてしまったかもしれません。これは、同様の体験のなかった日本人には刻み込まれていない「生きる知恵」です。
踏みつけられる民草から脱し、何とか上に抜け出たい、自分だけ損したくないという切実な希求が、上司から注意されたり指摘を受けた際、反射的に「言い訳」や「自己弁護」に終始してしまう姿と重なります。
他方、日本人の場合は、協調性や合意形成を重んじる必要性と、ムラ社会の固定的な人間関係から、「他人と違うことを避ける」気質が生まれました。これは「良い方に目立つのもイヤ」、「悪い方に目立つのも恥だ」という価値観であり、「人並みでいたい」という心理です。
人並みを望む日本人は、自己主張を戦わせることに慣れていません。もっと言うと自己主張は悪いものと反射的に感じてしまうところがあります。
このように、日本人と中国人の間には「話し合い」と「自己主張」という、正反対とも言えるコミュニケーション習慣が存在するのです。
大きな違いを乗り越えて、どうコミュニケーションを図るか
この差異を踏まえた上で、どうコミュニケーションを図ればよいのでしょうか。言い訳を撲滅したければ、「率直に直ちに報告した者は容認する。ただし言い訳や失敗隠蔽を優先した者は許さない」とルール化し、実際に経営者がそれを遵守することです。
中国人社員が本能的に言い訳(自己主張)する原因を逆手に取り、「言い訳した方が損である」、「自己主張を優先させていると評価されず上に抜け出せない」ことを明示するわけです。
一方で定期的に時間を取って社員たちの自己主張に耳を傾けることも必要です。誤解や理解不足、根拠なき不安など色々出てくると思いますが、経営者が丁寧に話を聞くことで彼らは安心し、経営者の話に耳を傾ける余裕が生まれます。
自己主張には拒絶反応で応えるのではなく、その背景にある事柄に目を向け、逆手に取って活かしてみてください。